最高裁判所第一小法廷 平成8年(オ)390号 判決 1997年4月24日
上告人
野村證券株式会社
右代表者代表取締役
鈴木政志
右訴訟代理人弁護士
木村康則
磯谷文明
本橋一樹
被上告人
佐野恒男
右訴訟代理人弁護士
佐藤正勝
岩佐直径
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人木村康則、同磯谷文明、同本橋一樹の上告理由第一点、第二点及び第三点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するに帰し、採用することができない。
同第四点について
原審の適法に確定した事実関係の概要は、(1) 被上告人は、平成三年当時、東光送電工事株式会社の代表取締役を務める四三歳の男性で、日興証券池袋支店で一億円を超える株式の取引をしていた者であり、隅田昇は、上告人の本店営業部所属の従業員であった、(2) 隅田は、平成三年一月一九日、かつて上告人の新宿支店における株式等の取引により損失を被ったことなどを理由に取引の開始を渋る被上告人に対し、上告人として法令により禁止されている利回り保証が可能であるかのように装い、まとまった金を預ければ、高利回りの保証で資金運用ができるとした上、年一五パーセントの利回り保証の約束をして株式投資の勧誘をし、その旨信用した被上告人に原判決末尾添付の「売買取引計算書」番号3以下のとおりの取引をさせた、(3) 右取引の多くは、隅田が自己の裁量で行い、被上告人には事後に報告していたものであり、被上告人は、本件一連の取引により、八〇〇〇万円を超える損失を被った、(4) 被上告人は、本件利回り保証の約束が成立した後に約束の書面化や履行を求めてはいるが、自ら要求して利回り保証の約束をさせたわけではなく、隅田の申出にひかれて取引を開始したにすぎない、(5) 右取引の過程で、上告人の天明寬本店営業部長は、被上告人に対し、隅田による利回り保証の約束を確認するとともに、右約束ができる理由を具体的に説明し、また、小谷正人本店営業課長も、隅田の右約束を前提に利回り保証の率を修正の上、取引を継続させた、というのである。
右事実関係の下においては、被上告人の不法性に比し、上告人の従業員の不法の程度が極めて強いものと評価することができ、上告人は不法行為に基づく損害賠償責任を免れないというべきであって、このように解しても、民法七〇八条の趣旨に反するものではない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。右判断は、所論引用の各判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。
同第五点について
被上告人の過失割合を三割としたなど所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官高橋久子 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄)